訪問美容の対象が広がったことで、要介護の高齢者だけでなく、外出が難しい妊婦の方や子育て中の方も自宅でヘアカットができるようになりました。ただしそれらは例外として認められているだけで、本来の美容は衛生環境を考慮して、ヘアサロンなどで行う必要があります。
そうなると自宅でヘアカットをして衛生面での問題がないのか、保健所に届け出を出さなくてもいいのかなど気になりますよね。そこでここでは、訪問美容と保健所の関係と衛生環境を意識した訪問美容選びについて、わかりやすく解説していきます。
原則として保健所が確認した施設以外の美容はNG
あまり意識したことがないかもしれませんが、ヘアカットなどの美容行為は美容師法によりさまざまなルールが定められています。たとえば「美容師は、美容所で美容を行わなくてはならない」といったルールもそのひとつ。
そして厚生労働省より美容所は「都道府県知事の使用前の検査確認を受けなければ使用してはならない」と決められています。都道府県知事の検査確認とありますが、もちろん知事がチェックしてまわるわけではありません。実際には保健所が検査確認します。
これを要約すると「美容師は保健所が検査確認した美容所でのみ、美容行為をしてもいい」ということになります。
ヘアカットなどの美容行為では、施術中に手や器具は人の皮膚に触れるため、感染症の拡大リスクがあります。その感染症を予防するために、きちんと衛生管理された場所でのみ美容行為が認められているわけです。
ただし、世の中の人すべてがヘアサロンに通えるわけではありません。たとえば寝たきりになった高齢者を、ヘアサロンまで連れていくのは非現実的です。しかしながらヘアセットせずに髪が伸び放題というのも衛生面から考えるとよろしくありません。
家族が髪を切るという選択肢もありますが、家族によるヘアカットは法律で認められていません。そうなると、美容師が保健所の確認したヘアサロンでしかヘアカットできないというのでは不都合があり、例外として訪問美容が認められています。
保健所が確認していない場所で認められるケース
美容師は保健所が確認した施設でのみヘアカットできますが、例外としてヘアサロンなどに行けない人は、保健所が確認していない場所で施術を受けられます。ただし、ヘアサロンに行けないなら誰でも利用できるわけではなく、下記のような基準があります。
必要なこと
- 要介護でヘアサロンに行くのが難しい
- 介護をしていて長時間自宅を離れるのが難しい
- 病気やケガで医師から自宅療養を指示されている
- 障がいがありヘアサロン行けない
- 妊娠中や育児中
- 結婚式や成人式に参列する
- 演劇などに出演する
このいずれかのケースに該当すれば、保健所が確認していない場所でもヘアカットできます。それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
要介護でヘアサロンに行くのが難しい
要介護者でヘアサロンに通うのが難しい場合は、訪問美容の対象となります。要介護4〜5の寝たきり状態でなくても、自分1人で外出するのが危険な状態であれば、自宅や介護施設などでヘアカットが可能です。
介護をしていて長時間自宅を離れるのが難しい
要介護者だけでなく介護をする側の人で、介護のために長時間の外出が難しい状況にあるなら、訪問美容でヘアカットしてもらえます。要介護者と一緒にカットしてもらうのも、単独で依頼するのもOKです。
病気やケガで医師から自宅療養を指示されている
一時的な病気やケガなどで、医師から自宅療養を指示されて、家から出られないというようなケースも、自宅療養が解除されるまでは訪問美容を使えます。ケガが原因で一時的に車椅子生活になり、ヘアサロンへの入店が難しい場合も訪問美容の対象です。
障がいがありヘアサロン行けない
身体的・精神的な障がいがあり、ヘアサロンでの施術が難しい場合も、自宅でヘアカットできます。
妊娠中や育児中
法改正により、妊娠中の方や育児中の方も訪問美容を利用できるようになりました。妊娠初期のつわりで家を出られない、臨月が近くて外出が不安というときに利用でき、さらには育児で自宅を離れられないという場合も自宅でヘアカットしてもらえます。
結婚式や成人式に参列する
結婚式や成人式などの儀式に参列する場合には、保健所が確認していない場所でのヘアカットが可能。ただし結婚式や成人式のタイミングで、写真撮影だけ行うというときには訪問美容の対象外となります。儀式や式典への参列がなければ利用できないのでご注意ください。
演劇などに出演する
映画やドラマの撮影、舞台などに出演する場合も、そのたびにヘアサロンへ足を運ぶわけにはいきません。このため、演劇などに出演する場合も保健所が確認していない場所でのヘアカット、ヘアセットが認められています。
保健所が確認していない場所も衛生管理は必須
ヘアサロンに行けない理由がある場合、美容師は保健所が確認していない場所でヘアカットできますが、もちろんどこでも自由に髪を切っていいというわけではありません。たとえば、天気がいいから自宅のお庭でヘアカットしてもいいかというと、もちろんNGです。
どこでヘアカットするにしても、保健所が確認した場所に準ずる衛生環境が必要となります。これは訪問美容を利用する側も、ヘアカットの環境を準備するうえで把握しておかなくてはいけないことですので、どのような環境ならヘアカット可能なのかについて詳しく解説していきます。
訪問美容で求められる衛生管理
訪問美容を利用するときには、2〜3畳程度のスペースを確保してほしいと美容師から依頼されますが、ただそのスペースがあればいいというわけではありません。きちんと衛生管理しなくてはいけませんので、下記のような条件を満たす必要があります。
条件
- 不必要な物品などが近くにない
- 採光,照明などで十分な明るさがある
- 換気できる
- 犬や猫などが入ってこない
- 施術中は依頼者と介助者以外近寄らない
訪問美容を利用するときには、「物が置かれていない、明るくて換気が十分にできる2〜3畳のスペース」を確保すること。そして、ペットや他の人が侵入してこないことも求められます。犬や猫などを飼っているなら、別の部屋で待機させてください。
自治体によっては事前に届け出が必要
もうひとつ重要なのが、自治体や保健所への届け出です。すべての自治体で必要なわけではありませんが、訪問美容をするために「出張美容届」などの書類提出を求められる地域もあります。届け出を提出するのは訪問美容の事業者ですので、利用する側が手続きする必要はありません。
ただし届け出が必要なのに、無視している事業者に依頼するというのは避けたいところ。訪問美容を利用する前に、自分の暮らす自治体で届け出が必要かどうかを調べておきましょう。もし必要だった場合には、事業者選びをするときに届け出を出しているか確認してください。
自分の暮らしている自治体で訪問美容の届け出が必要
YES:届け出を提出している訪問美容事業者から選ぶ
NO:どの訪問美容事業者を選んでもOK
少し面倒に感じるかもしれませんが、この確認だけは必ずしておきましょう。
衛生管理を意識した訪問美容選びのポイント
訪問美容を利用するためには、いろいろと面倒なルールが定められており、もっと手軽に利用できたらいいのにと感じた人もいるかもしれません。ただ、衛生管理を徹底することは、自分たちの健康維持のため。
むしろ不要な感染症などを防ぐために、利用者は高い衛生管理意識を持って訪問美容事業者を選ぶ必要があります。ただ、どのような基準で選べばいいのか判断がつかないという人もいると思いますので、ここでは衛生管理を意識した訪問美容選びについて解説していきます。
事業所がある訪問美容を選ぶ
訪問美容は「介護専門の訪問美容」「ヘアサロンの訪問美容」「個人の訪問美容」の3種類に分類されますが、衛生管理を意識したい場合には、介護専門もしくはヘアサロンの訪問美容がおすすめです。
ヘアサロンは開業するときに保健所の確認を受けていますし、介護専門の訪問美容も保健所の確認を受けているか、もしくはそれと同等の衛生管理を実施しています。それをしないと事業を継続できないので、高い意識で取り組んでおり、安全が担保されているというわけです。
ちなみにこれら2つに関しては、下記の使い分けがおすすめです。
介護専門の訪問美容:要介護者
ヘアサロンの訪問美容:妊娠中・育児中・儀式への参列
病気やケガ、障がいなどが理由で訪問美容を依頼する場合には、どちらを利用しても構いません。ただし、身体的なサポートが必要なく、理想のヘアスタイルに仕上げたいなら、ヘアサロンの訪問美容がおすすめです。
個人に依頼するときには信頼できる美容師を選ぶ
衛生管理を考えたときには、事業所がある訪問美容事業者を利用したいところですが、個人の訪問美容が必ずしもNGというわけではありません。個人の訪問美容をおすすめしていないのは、衛生管理に対する意識が、美容師ごとにバラツキがあるためです。
ヘアサロンでの勤務歴がある訪問美容師なら、衛生管理の基本が身についているので安心して任せられます。ところが、美容学校を卒業して美容師免許を取得したばかりの訪問美容師は、理屈では衛生管理の重要性を知っていても、現場経験がなく衛生管理を軽視する人もいます。
そのような人に依頼してしまわないためにも、個人の訪問美容を利用する場合には、すでに付き合いがあるなど、信頼できる訪問美容師にお願いしましょう。
介護施設と提携している訪問美容事業者に依頼する
すでに実績がある訪問美容事業者も、衛生管理という面では安心して利用できます。ただ、どの事業者に実績があるのか判断するのが難しいかと思いますので、そういう場合にはデイサービスや老人ホームなどの介護施設と提携している事業者がおすすめです。
介護施設は施設利用者の健康を守る必要があるため衛生管理の意識が高く、提携している訪問美容事業者にも同レベルの衛生管理を求めます。このため、介護施設と提携しているというだけで安心して利用できます。
衛生管理を重視するなら介護施設で施術を受けるか、ケアマネジャーや施設管理者に提携している事業者を紹介してもらいましょう。
まとめ
本来ヘアカットは保健所で確認を受けた場所でしか認められておらず、訪問美容はヘアサロンなどに通えない人のための特例として許可されています。ただし訪問美容でも、ヘアサロンと同じレベルの衛生管理は必要で、利用する側もそれを意識してスペースを確保しなくてはいけません。
訪問美容を利用するときには、施術を受ける人と介助者以外が近寄れない場所に、2〜3畳のスペースを確保。ペットを飼っている場合は、別の部屋で待機させるなどして、ヘアカット中に侵入してこないようにしてください。
また、衛生管理を意識して訪問美容事業者を選ぶのであれば、介護専門の訪問美容かヘアサロンの訪問美容がおすすめです。もし個人の訪問美容師に依頼するなら、介護施設と提携しているなど、信頼できると判断した人にお願いしましょう。